『スパイダーマン:ホームカミング』の監督が手がけたスリラー『コップ・カー』は一見の価値あるカミング・オブ・エイジ・ストーリー
■今夏、見逃せない映画は『スパイダーマン:ホームカミング』!
今年の夏、絶対に外せない映画といえば『スパイダーマン:ホームカミング』です。日本では8月公開ですが、本国アメリカでは既に公開されており、先週末のボックスオフィスで、なんと1億7百万ドル越えの大ヒットを記録しています。
しかも、批評家からは「マーベル史上最高傑作」と大絶賛を浴びていて、既に続編への期待の声がなりやみません。
筆者も楽しみで楽しみで仕方がない!状態なのですが、りんごちゃんがいるので映画館では見れなさそう…。
少し残念な気持ちもありますが、待てば待つほど楽しみは増えるということで、見るまでのワクワク感を楽しみたいと思います。
■『スパイダーマン:ホームカミング』の監督が手がけたスリラー『コップ・カー』は超オススメ
しかし、この結果を受けて、私はある使命感に燃えています…。
この『スパイダーマン:ホームカミング』のジョン・ワッツという監督、実は私が昨年観た映画の中で一番の掘り出し物だと思った作品を手がけた人なのです。
以前からこの映画を広めたいと思っていましたが、今こそその時だと思い、がっつりご紹介したいと思います。
さて、映画のタイトルは『コップ・カー』。
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「ガキども――遊びは終わりだ」というのが日本版のキャッチコピーになっているのですが、蓋を開けてみれば『スタンド・バイ・ミー』を思わせるカミング・オブ・エイジ・ストーリー。
笑いと緊張のバランスや、こちらが体感できるようなリアルさもたいへん魅力的です。
多くの人に知ってもらいたい秀作です。
■『コップ・カー』ってこんな話。
まずは、あらすじを書いてみます。
家出少年2人が森で無人のパトカーを見つけます。大喜びで乗り込んで遊ぶ2人は、そのまま車を走らせてしまいました。しかし、その車の持ち主は悪徳警官。警官はパトカーが無くなっていることに驚き、探し始めます。トランクの中にはまだ「重要なもの」が隠されているのです。2人の少年の運命は? そしてトランクの中のものとは?
という感じ。
こうして書くと、まさに「スリラー」という感じがしますが、かなりシュールな笑いが散りばめられたブラックコメディ的要素も強いです。
悪徳警官が一体何をしたのかがハッキリしないのですが、それは基本的にパトカーの周辺で起こることのみに焦点を当てる、という野心的な試みのためであるのは間違いありません。
また、少年たちの抱える背景がとても良く機能しています。
■上質なカミング・オブ・エイジ・ストーリー
この映画は語りたいところがたくさんあるのですが、一番は、やはり少年が大人になる瞬間を鮮やかに捉えている点です。
例えば『スタンド・バイ・ミー』のゴーディが一瞬で大人の目に変わったように、彼らは自身の弱さを知ったり、あるいは自分の知らなかった強さへと目を開かれたりして、「少年」の先のステップへと進まざる得なくなります。
そこで生きてくるのが2人の抱える背景。
それぞれに、事情のある彼らは、その背景によって、仕切り屋だったり、気が弱かったり、という表面的な性格ができあがったのだろうなと感じられるのですが、危機に直面することでその「表面」の皮が剥がれていくのです。
すると、意外な「本当の自分」というものが出てきて、彼らは一つ大人へと進んでいくわけです。
この辺りの洞察の鋭さ、たいへん素晴らしいです。
■滑稽さと緊張感の絶妙なバランス
悪徳警官をはじめ、悪党たちには間の抜けた描写が多く、滑稽に撮られています。
面白くてにやにや笑ってしまうのですが、ポイントは、滑稽過ぎない、というところ。
面白おかしく撮られていても、強面から滲む凶悪さは損なわれていません。
ですから、笑えることは笑えても、画面には常に緊張感があり、それが観る者を引き付けます。
少年たちがどうなってしまうのか、というドキドキを終始感じていられるのです。
笑いと緊張の匙加減が非常に上手いことは、この作品の大きな特徴の一つでしょう。
■リアルかつシュールな光景
この作品で描かれる光景には、どことなくシュールな印象を受けます。
例えば少年たち。
彼らは無知な子供であるが故に、見ていてヒヤヒヤするような行動を遊び感覚で平気でします。
パトカーを勝手に走らせてしまう時点で、大人からしたらかなりやばいです。
そういう場面が、この映画には散りばめられています。
彼らの行動も直面する危機も、日常には起こりえないようなものです。
けれど、一方で、大人が見ると怖いことをはしゃいで楽しくやってしまうという所には、少年らしさが滲んでいて、とてもリアル。
ありえない事なのに、どこか現実味を帯びているのです。
滑稽な悪党たちの描写も然り。
彼らのする言動は日常にはありえないものですが、普通はできないことをあっさりとやってのける「映画的非現実」の気配も全くありません。
やっていることは非現実的でも、その光景――さらりとこなせずに苦労している様はやたら現実的なのです。
そして、なんだか「分かる分かる」という妙な気持ちにすらなってきます。
ここが彼らの滑稽さの一つで、シュールな笑いが見事に決まっています。
私たちの日常にはありえない光景が、非常に現実的に撮られているのです。
■少ない情報だからこその余韻
この作品は、前述のようにパトカーの周辺で起こることのみに焦点を当てています。
つまり、それ以外の部分にはほとんど言及されず、悪党たちが一体何をしてどう繋がっているのかも明示されません。
けれど、これは作り手の野心的な試みであり、成功していると言えるでしょう。
分からない部分があるからこその恐怖がしっかりと感じられるのですから。
もう少し言うと、少年たちに分かることしか観る側にも分からない、というのが、彼らの内の疑問や恐怖をリアルに伝え、感情の追体験を促すような印象なのです。
そしてラスト。
本当の自分を引き出された彼らの運命がどうなるか見せないことによる余韻が、また良いのです。
一体どうなってしまうのか? という緊迫感と、きっと大丈夫だと思えるような、大人の目に変わった少年の成長とが相まって、最後には不安と希望の入り混じった余韻を残し、幕を閉じます。
本当に、本当におすすめの映画です。
『スパイダーマン:ホームカミング』を観る前に、ぜひこちらの映画もチェックしてみてください。