Zooey100’s diary

りんごちゃんを育てたり、映画観たり、小説書いたり、フィギュアスケート観たりするアラサーのブログ

ドラえもんの世界観を大事にし、直接語らない心の内を掬い上げる優しい映画『ドラえもん のび太の月面探査記』

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3月のことですが、りんごちゃんと『ドラえもん』映画最新作、『ドラえもん のび太の月面探査記』を見てきました。
正直、前作の『宝島』が驚くほど自分にはハマらなかったので、期待値のめちゃくちゃ低い状態で見たのですが…


めっちゃ面白かった!


ので、遅ればせながら、『ドラえもん のび太の月面探査記』の感想を書いてみたいと思います。

「映画ドラえもん のび太の月面探査記」予告2【2019年3月1日(金)公開】 - YouTube


■『ドラえもん』らしい世界観

ドラえもんの面白さのひとつには、もちろんひみつ道具の魅力があるでしょう。
けれどそれは、単にいろんな便利道具が出てきて面白い、というだけではありません。
興味深い機能を持った便利道具と、それを使う者が凝らす工夫(時によっては失敗)とが合わさることで、思いもよらない事態に発展していく、それが楽しいのです
 
こののび太の月面探査記』にはそういう楽しさが随所に見られます。
月でウサギのような生き物「ムービット」を作り出してウサギ王国を作ってみたら、想像を遥かに超えるスケールのものが完成したり、失敗と思ったウサギが予想外のところから出てきてしまったり…。
また、ひみつ道具は思いがけない形で終盤の展開に絡んでもきます。
そして、それがあるからこそ、ウサギ王国もムービットたちも大活躍できるのです。
ひみつ道具とそこから生まれたものをきちんとメインストーリーの中で機能させていく辺り、ドラえもん』の世界観を大切にしていることがよく伝わってきました。
 
ドラえもんらしさ、ということで言えば、細部のユーモアも見逃せません。
ムービットたちが出してくる料理がほぼ餅ネタであるところなど、なかなかにシュールで面白い。
のび太が死んでしまったのではと勘違いした時のドラえもんの様子も、スネ夫がルナとの別れを惜しむ(?)所も、彼ららしい個性で笑わせてくれます。
 

■描かれる物語 そこに滲むドラマ

さて、肝心のストーリー についてはどうか。
まず、物語の大筋は非常に良く練られていました
メインキャラ(と、それぞれに持っている小ネタ)は敵キャラも含め無駄遣いされることなく、みんなストーリーの中で活躍します。
誰が欠けてもお話として成り立たないくらいに作られていて、これだけ登場人物が多いのにと、感心します。
 
ドラマとしては、どうでしょう?
実は大げさな感動ストーリーは、あまりありません
 
月にやってくることになったエスパルたちの過ごした時間がいかに辛かったか、その時間の中でエスパルたちの間にどんなドラマがあったのかなどは、特別なエピソードとしては語られません。
けれど、直接語られなくとも、月面という無機質な土地の画があれば、そこで息を潜めて何千年という単位の時間を過ごす苦しさは十分に伝わってきます
個人的な好みになりますが、苦労話をねじ込んで、安易な感動へ持っていくよりは、岩があるだけの月面で時間を過ごすしかないことの途方のなさを感じさせる描き方の方が、哀愁が伝わってきていいなと思います。
 
これもごく個人的な見解だけれど、今回のドラえもんの最も良いところは、こういう所ではないかと思います。
よく振り返ってみると、意外にも、いくらでも語れそうなことを語っていない箇所が多い

例えばスネ夫エスパルたちを助けに行くのをためらう場面
彼がウロウロしながら迷っている様子が映し出されるだけで、彼が思いの丈をぶつけるシーンもなければ、迷いを振り切るきっかけが描かれているわけでもありません。
それでも、観ている側には彼が思っていることが、ちゃんと伝わってきます。
友人を助けたい。でも怖い。ルナちゃんを助けたい。エスパルたちを助けたい。でも怖い。ルナちゃんを助けたい。ルナちゃんを助けたい。ルナちゃんを助けたい。怖いけど、ルナちゃんを助けたい。そう思っているに違いないのです。
彼がそういう気持ちを表に現すことはありませんでした。
その代わりに、彼は出発の時間に遅れてしまったことを、言い訳をして誤魔化します。
みんなを助けたいけどそれをするのは恐ろしい、という葛藤を抱きながら、そういう気持ちを知られたくないという彼なりの見栄が、彼の感情をより愛おしいものにしています。

感情をぶつけ合うことだけがドラマではない。心に秘めておくこと、その思いをそっと掬いあげていくことにも、やはりドラマはあるのだなと感じました。

同じように、それぞれがそれぞれに心に秘めていることがあるのだろうと窺えるシーンがとても多い。
特に、ゲストキャラクターのルカにはそれが顕著です
そして、そういうシーンが、この物語へ切ない味わいを与えています。 
というかルカくん超かわいいですよね…
最後にのび太とハグするとことか、萌え死にます。
  
また、日常の些細なところに潜んでいる愛情や優しさをしっかり掬いあげているのも好きでした。
おやつを準備しておくという、日々の生活の一部にある優しさを、そっと取り出してみる。
そうやって観る側の気持ちを解くような場面が多い所も素敵でした。

ラスト、自らの判断で『異説クラブ』を解散する、もう二度と月には来ないと決断するのもとても良い。
否応なくそうなってしまうのではなく、寂しくてもそうすべきだと自分たちで決めることに、大きな意味がある場面でした。

また、主題歌がとてもいい。
イントロからもう優しさと切なさが漂う曲調で、作品の持つイメージにめちゃくちゃあっていました。
歌詞も映画のストーリーと重なり、エンドロールで流れると本当に感慨深かったです。
歌詞と曲調がとてもよくマッチしていて、それが映画にもぴったりハマるという。

平井 大 / THE GIFT (Music Video) - YouTube


■『月面探査記』と好対照なのは…

余談になりますが、この『月面探査記』と好対照で面白かったのが『新・鉄人兵団』です。

『月面探査記』がかなり女性向けであるのに対して、『新・鉄人兵団』は男性向けです。
ゲストキャラクターが美少女であることも(『月面探査記』は美少年)、人型の大型ロボットが活躍するところも(ザンダクロスのカッコいいこと…)。
また、ドラマ部分に関しても、『新・鉄人兵団』はお互いの感情をぶつけ合うところから生まれるドラマに焦点が当たっていました。
どちらも面白い作品ですが、これだけ真逆のことを同じ世界観で描いて、なおどちらも優れているというのは、描き方は無限大だということの表れのようにも感じました。